手話の認知学的研究
神田和幸 情報福祉論文特集 電子情報通信学会誌 Vol. J90-D No.3 pp.609-616
2 手話使用者と手話の種類について
日本では純粋な聾者というのは少ない。
聾者の定義はまったく存在せず、本人の自覚によるもののみ。
だから、日本手話だと聾者が申告しても、実際には日本語対応手話のことがよくある。
2.1 手話の種類
日本手話 と 日本語対応手話 が存在するのは、即知であるが、それに加えて、まだひとつある。
それは聾者と日本手話に近いけど、完全ではない変種。日本手話と日本語対応手話の中間種である。
これを論文中では 中間型手話 と呼んでいる。
日本手話と中間型手話の判別は難しい。
実際にところ、本人の申告以外に確実な方法はない。
だが、
* 失聴時期
* 教育歴
* 親子関係
などの社会変数から推定が可能とのこと。
など。って何だよ!と思ったがこれくらいは省いてもいいだろう。
ま、実際にぼくはここに関わらないし。
3 コミュニケーション手段としての手話考察
1人のろう者がいれば自ら手話を初め、周囲もそれを理解するようになる。外国では島に1人しかろう者がいない場合でも手話が発生したことが知られている(Washabough et al.,1978)
ということ。自然発生的な言語と考えることができる。
また、聴者の両親の間に生まれた聾者の子どもは、両親と意思の疎通を図るために、やはり手話をする。この手話をホームサインという。
ホームサインは個々の両親と子どもの間に発生する手話にも関わらず、聾者集団の手話と共通性があることがわかっている(武居,2005)
4 手話の認知構造と言語的考察
手話語構成は、「音素が形態素を、形態素が語を、さらに語が句や文を構成する際には前後関係により意味が規定される」ということ。
つまり、語は形態素により構成。形態素は音素により構成。文は語と句の前後関係により構成。
手話は3次元空間を利用するため、一瞬にして多くの情報を詰め込める。と説明されている。つまり、かなりエンコーディング能力が高い言語と考えることができる。(神田+,1999)
4.2 記号について
語彙を構成している要素の説明。
CL: 分類辞 Classifier が語彙を構成している。
* 特定の手の形が特定の意味をもつタイプ(SASS Size And Space Specifiers)
* 手の形と動きが連動してある抽象的図形を表示し、それが語を構成するタイプ(意味類辞)
* 何かものを取り扱う仕草をする対応(取り扱い類辞)
* 身体そのものをCLと扱うタイプ(身体類辞)
「手話の語形成は有限の要素の組み合わせにより無限の語を作り出す開放系システム」
「音声言語の形態素構成、語形成と同じ構造」
と説明。
手話の統語構造には以下の説明
疑問や否定のような法は助動詞でなく、表情を用いる。
(ちなみに表情には世界的に似たものがある Schlesinger,Namir, 1972)
時制の表現は「時線」を用いる。
目の横あたりを境にして、前側が未来、後ろ側が過去になる。
これについても外国手話との共通性がある(Fant,1972)
4.3 手話の対話性
人称と目線についての関係。
「目線が人称を規定と説明」
だから、実は手話では「あなた」「私」の表示はほとんどされない。
というのは、省略ではなく、目線によって人称が定義済みだから。
具体的には、自分が相手をみた状態で、「好き」の表現をすると、「私はあなたが好きです」になる。
これは目線が自分から相手に向いており、人称が規定されているので、可能なこと。
もう一例、自分が相手をみた状態で、「名前」の表現と共に疑問の表情をすると、「あなたの名前は何ですか?」になる。
これが前節の「エンコーディングが優れた言語」という意味に該当するのだろう。
ちなみに目線が相手を向いていなければ、3人称を規定する。
日本語対応手話では、しっかりと人称が語で表示されることが多く、人称のあり、なしで日本手話と日本語対応手話の区別になる。と説明。
4.4 手話の音韻・形態素・統語の概説
手話の語は形態素によって構成。
形態素は構成素により構成(構成素自体は意味をもたない)。この構成素を便宜上(言語学に従い)音素と呼ぶ。
手話の音素は
* 手の形
* 手話をする位置
* 手話の動き
がある。
これってムサシデータのことじゃん!
統語構造については以下の通り
NMS
具体的には表情の変化のこと。
疑問や否定、命令などの法(Mood)
姿勢の方向で話者変換を行う(role shift)
姿勢の固定で関係構造
(以上、すべては 神田和幸,手話学講義,福村出版,1995 による)
動詞と動詞のとる項の関係
動詞に関係する項が動詞の形成段階で含まれてしまう。
例えば、自分が相手を見た状態で、「会う」の動作をする。「会う」は人指し指を接近させることで示す。この時、人指し指が動詞の項になっている。そして、項は目線で規定された人称に一致する。つまり、この時、相手を見て両手の人指し指を立てて、くっつける動作をすると、「わたしはあなたに会う」という意味を表示
この時、すでに「会う」の動詞の中に「私」と「あなた」が組み込まれていると考えることができる。
プログラム言語的に考えるならば、クラス構造で{語、項、項2}のようになっていて、「会う」が表現できるかもしれない。
ただ、ひとつ注意すべきは、この時、「わたし」と「あなた」どちらが主語で目的語か?という情報は含まれていないこと。
「わたしがあなたに会う」なのか「あなたがわたしに会う」なのかどちらかわからないけど、とにかく「わたしとあなたが会う」という事実がある。
同じ構造を利用して、動詞だけで文を表現することができる。
そういえば同じ現象はペルシア語にも見られる。
ということは手話で解消できればペルシア語にも応用可能だろうか?
ex. دیدمش I see him
サンドイッチ構造
名詞が多くなり、関係がわからなくなる場合に備えて、文末で主語(主格)の語を再帰的に表示する。
つまり、これがptのこと。
いままで、ptが文末区切りなのか?と勘違いしていたが、そうではない。
これは再帰構造を示すマーカーだったのだ。
ちなみに代名詞再帰は日本手話特有の現象。(鳥越,1991)
話題化
この論文の説明ではよくわからない。
木村 市田 1995 を見るといいかも
(この本はすでに持ってた….)
5 手話の工学的応用へ
先行研究的なものに
池田 1996 アニメーション
宮下 2003 表情付きのアニメーション
があるが、上の問題は文になっていないこと。
というのは、自然言語処理の問題と言える。
この論文中では手話翻訳には
手話語彙辞書 形態素辞書 統語辞書 日本語語彙辞書 形態素辞書 日本語統語辞書
が必要だと書いている。たしかに納得できる話
しかし、これはルールベースの話だろう。
統計ベースを利用するならば、 統語辞書と日本語統語辞書は 係り受け解析のアライメントに置き換えられるかもしれない。
いずれにせよ、データ待ちである。