関西女性の話し方はどうしておもしろいのか?
吹田市にある国立民族博物館に行った時に,偶然にも「ウィークエンドサロン 研究者と話そう」という企画をやっていたので,話を聞いてきた.
講演者は民族博物館で機関研究員の金田純平研究員.
金田純平 | 国立民族学博物館
講演の主な内容
(ここ から引用)
関西地方の方言は「お笑い」の言語として広く知れわたるようになりました。しかし、それはプロの芸人に限った話ではなく、一般の人もまた笑いを志向する話し方のワザを持っています。関西在住の女性の笑い話を観察し、どのように笑いを生むのかについて一緒に考えてみましょう。
ここまで引用
具体的には,談話の構造を分析した先行研究を参照しつつ,神戸大学が作成した「おもしろい談話データベース(勝手にぼくが名付けた)」の上で,分析を行い,関西在住女性の笑い話を考察する.というもの.
ちなみに,データベース自体は「わたしのちょっと面白い話コンテスト」第3回投稿作品で見れる.投稿作品の中から,一般投票で優秀作品を決定している.もうひとつちなみに,商品は神戸牛1kgと,実に商品も関西らしい.
まず,談話の構造分析を行った先行研究をまとめてみる.(ちなみにこれらの先行研究の内容はすべてNLPとはほとんど関係ない.いや,もしかしたら,間接的には影響しているかもしれないが,少なくとも直接的には関係ない.)
社会方言と地理方言
簡潔にまとめると,社会方言は,社会的ステータスによる方言.例えば,イギリスでは上流階級と一般市民で話言葉が違う.という現象がこれにあたる.ちなみに先行研究はTanne(1984)を挙げておられた.
一方,地理方言は,いわゆる普通の方言.例えば,関西弁と東京弁の違いのような現象を指す.
今回の分析は,関西の(地理的方言の特徴を持つ)女性(性別を考慮しているので社会方言に該当する)なので,上記の両方を考慮した分析と言える.
文化圏による談話流れ
談話ともなれば文化圏によって,話の進み方も変わるらしい(ちょっと具体例がないので,わかってないが)
Kaplan(1966)が文化圏による談話構成の違いを調査,分析したそうだ.
図示もされていて,わかりやすいと言えばわかりやすい.
※ただ,Kaplanの研究はKaplan自身がアメリカ人であること,そしてその自身の文化圏であるアメリカ(現在の,つまりネイティブアメリカンではなく)文化圏を中心に考えていること自体がいろいろとまずい.したがって,その点から批判も多いようだ.
日本の性による笑いの談話構造の違い
ここから話は日本に移る.
性別によって笑いの談話構造に違いがあるらしい.
女性であれば,「身近な人(含む,本人)の失敗談を笑い話として披露する傾向がある」とのこと(大島,2011)
逆に男性ならば,「変な人の話,作られたジョーク,ダジャレを披露する傾向がる」とのこと(特に先行研究が述べられていなかった)
ただし,上記はあくまで傾向なので,かならずすべてが当てはまるわけではない.
とは言え,そういわれればそんな気もする.特におやじギャク(ダジャレ)は「おやじ」と頭についているように,普通は女性は言わない.(少なくとも女性がダジャレを言っているのを聞いたことはない気がする)
語りの談話構造
日本語における語りの構成要素を調べた先行研究があるようだ(Mayland, 1989※)
※日本人だが,アメリカ人と結婚してハワイに在住らしい.だから,この調査は日本人が日本語の語りの分析をした.ということ.
以上が先行研究の紹介.
ここからおもしろい談話データベースの上で分析をした結果の話だった.
(評価が高かった)おもしろい話の特徴とは?
- フィラーが少ない(後述)
- 接続詞がはっきりしている(後述)
- 会話は直接引用形式が多い
- 表現自体は,具体的,悪く言えば冗長的
という特徴が観察できたようだ.
このうち,接続詞についてはくわしく説明があった.
接続詞,といっても,ここでは「〜たら」,「〜なら」に特に注目していた.
接続詞の「〜たら」,「〜なら」を分析した先行研究で(加藤,2003)があるそうだ.
この先行研究では,「〜たら」,「〜なら」の機能として「出来事語りの接続」が挙げられていた.
ここで言う「出来事語り」とは
- 状況説明
- (談話の中心者が何者かに)遭遇
- (談話の中心者の)反応
の3つで構成されている.データ型的に言うと,出来事語り=(状況説明,遭遇,反応)というタプルで構成されている.と言う方が適当か.
で,話は戻って,接続詞「〜たら」,「〜なら」はこのタプルを連結する機能をもっている.というのが(加藤,2003)の内容らしい.
ところで,また話はそれるが,「笑い」というものは「一般の予想と違う結果が来た時に発生する」である.(個人的にはこの考えはベルクソンの説に端を成しているように思う
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で,このオチに達するまでの過程だが,一般の人※とおもしろい談話データベースの女性達とで違う過程が少し違うそうだ.
※一般の人,とは誰なのか?の言及はなかった
一般の人は 説明かたり→遭遇→反応→オチ,つまり出来事語り一回の後にオチがくる.
つまり,正規表現的にはこういうこと
(説明かたり, 遭遇, 反応) ([タラ|ナラ]) オチ
対して,おもしろい談話データベースの女性達は,(説明かたり→遭遇→反応)が複数回続いたあと,最後にオチが来るそうだ.正規表現にでもすれば
( (説明かたり, 遭遇, 反応) ([タラ|ナラ]))+ オチ
ということになるんだろうか.
つまり結論として,「関西女性の笑い話が面白いのは談話構造が一般と違うから」という仮説が発生した.ということになる.残念ながら,他の地域,もしくは性別との比較を行っていないので,仮説どまりの状態にすぎない.
笑いを起こすための細かな技術
談話構造とは直接の関係はないが,笑いを起こすためのテクニックがいくつか観察できたそうだ.
フィラーが少ない:面白いと評価を受けた女性達の話方はフィラーが少なかったそうだ.特にオチの部分ではフィラーはほとんどみられない.逆に,あまり面白くない,という評価の話方はオチの部分にフィラーがかなり紛れ込んでいたそう.なので,「オチにフィラーが入ると面白さがなくなる」という仮説くらいは言えそう.
視線:オチに入ると,対話者の目をしっかり見る様になるそう.もしかすると,「これからがオチだ!」と暗示的に示しているのかもしれない.※なお,データベースでは対話者目線ではないので,視線の方向は確認できない.
声の変化(演技):特に談話に複数の登場人物が登場する場合,面白い話ほど,よく登場人物の声色を使い分けていたそうだ.これも暗示的に登場人物の差をわかりやすくして,面白さに貢献しているのかもしれない.
先ほど,結論として「関西女性の笑い話が面白いのは談話構造が一般と違うから」,と述べたが,それはつまり「関西女性の笑い話は何度も出来事語りが続いたあとにオチがくる」ということを指している.
さらに,いま述べた,笑いを起こすための細かな技術を併せて考えると,関西女性の話し方は「あの手この手で聞く人の興味を引く,サービス精神旺盛な話方」とまとめていた.
だが,逆に「何度も出来事語りが続く上に,必要以上に目を見たり,演技を入れたりと,他の地域の人からみるとクドく感じる可能性がある」ともまとめていた.
ちなみに,このデータベースだが,現在の状況は,「映像+字幕の言語情報」の状態らしい.金田研究員が分析したメタデータはいまの所は付与されていない,とのことだった.
NLPにおける談話解析はまったく触っていないので知らないが,将来的にはこういう資源も役に立つんだろうか?と思いながら話を聞いていた.