特集記事:「旧約聖書の言語」のまとめノート
研究室に大修館の「言語」が並んでいるのをふと見た.松本先生が「言語」を愛読しており,バックナンバーが全部そろっているのだとか.
ぼくも何冊か読んだことがあるが,(自然)言語好きにはたまらない雑誌だろう.
それだけに廃刊になったのは残念.
ところで,03年12月号が「旧約聖書の世界」という特集だったので,読み込んでみることにした.
大修館書店
旧約聖書で用いられていた(登場人物達が使っていた)言語と,その言語の簡単な形態素規則を紹介している記事.
まず基礎知識として
記事の要旨は
- 言語資料(つまりコーパス)としての聖書の性質
- ヘブライ語の移り変わり
の2つの部分で構成されている.
(2がヘブライ語の起源,3がヘブライ語の歴史.というタイトルがついているのだが,ぼくには2と3は同じくヘブライ語の変遷を扱っているようにしか見えなかった)
1 言語資料としての聖書
そもそも聖書は長い時間をかけて編纂された文章である.しかも収録されている記録は様々な時代,地域で記載されたものを集めている.悪い言い方をすると,つなぎ合わせた文章である.
なので,コーパスとしての聖書は,質が異なる文がいくつも存在しいている上に,違いが明示的に示されていない.ということになる.
2 ヘブライ語の移り変わり
まずはヘブライ語の基礎知識から
セム語の言語グループをきちんと述べると,セム語族西セム語派カナン語グループに属する.
この系統の言語は
- 語の形態素は語根と語型により構成される
- 接尾辞活用形が能動態の完了形を示す
- 接尾辞活用形(つまり能動態の完了形)がtを含む
- 語頭に*wがあった場合*yに変化する
という特徴をもつ.
こういったヘブライ語の動詞の起源を構成を解明するヒントはエジプトのエル・アマルナで発見された.このヒントは通称,「アマルナ文書」と呼ばれている.そして,この文書に記載されている言語は「アマルナ言語」と呼ばれている.
アマルナ言語は当初はアッカド語の方言に過ぎないと考えられていた.しかし,1970年代に,語根がアッカド語で接辞にカナン語を使用している言語だと判明した.
例えば,
kašd(アッカド語の到着する)+āti(カナン語の人称接尾辞1人称)=kašdāti(アマルナ語「私が到着した」)
※前にも述べたとおり,西セム語派では接尾辞活用は能動態の完了形を示す
法の制御は接頭辞で行っている.接頭辞活用直接法にはyaqtuluとyaqtluの2つの形があり,yaqtuluが未完結相の意味,yaqtluが完結相を示す.
※残念ながら,例が与えられていないので,示すことができない.
以上がヘブライ語の簡単な概説.
続いて,旧約聖書中のヘブライ語について.
旧約聖書のヘブライ語は,時代の軸でみると,文が作成された時期によって大きく2つに分類できる.
- 標準聖書ヘブライ語:バビロン捕囚以前
- 後期聖書ヘブライ語:バビロン捕囚後
さらに地域の軸は次のとおり
- Israelian Hebrew(IS) 北イスラエルで話されたヘブライ語
- Judahite Hebrew(JH) 南ユダで話されたヘブライ語
これだけの要素を混合された図が時代と共にp.73に記載されているので,参考にされたい.