「モーセ5書の成立」を読んだノート

大修館書店の「言語」03年12月号から
大修館書店

モーセ5書の成立を紹介している記事.

そもそもモーセ5書とは?
旧約聖書の最初の5文書のことを指す.具体的には「創世記,出エジプト記レビ記民数記,申命記」のこと.
この5書はユダヤ教では別格で,安息日の礼拝では必ず5書の一節が朗読される.

モーセ5書の内容

世界の始まりから,イスラエル民族の始まりからのイスラエル民族の救済史が述べられる.
(批判もあるだろうが)ものすっごく5書の内容を完結にまとめるとこうなる

  • 神,世界をつくる
  • 神,アブラハムにカナンの地を約束する
  • カナンの地が飢饉にやられる.アブラハムたちは「カナンだめじゃん」とエジプトに移動
  • それから時代は流れて...イスラエルの民はエジプトの奴隷的な立場におかれていたのだ!
  • 神,イスラエルの民をエジプトから脱出させるアイディアを思いつく.モーセを脱出のリーダーにする.脱出後,神とイスラエルの民が10戒を契約する.
  • 脱出後,カナンへの帰還をめざす.道中があまりにもしんどいもんで,イスラエルの民が神に反抗.神,怒ってイスラエルの民たちをカナンの地に入れない.ただし息子の代だけは入ってOK

という流れ.最後はモーセが死ぬ所で5書は終わる.

5書の矛盾

実は,モーセ5書には矛盾が多い.というのも,実は5書は後々の時代にいくつかの文書を集めて組み合わせたものだからだ.

以下,記事の中で挙げられている矛盾の例

  • 創世記で命あるものを創造する順序が食い違っている
  • 神という単語に「ヤハウェ」と「エロヒーム」の2種が入り交じっている

矛盾だけではなく,文体や表現法も到底は同一人物が書いたとは思えない程に違っているのだとか.(残念ながら,日本語訳では統一されていまっているので,この違い,はっきりとは確認できない)

四資料仮説

モーセ5書の矛盾から,「モーセ5書はいくつかの資料が組み合わさってできている.その数は4種だ」という仮説が示される.19世紀末のドイツのことで,グラーフ,クーネン,ヴェルハウゼン,ノートらが提唱したものらしい.

以下,簡単に4資料を書いておく

  • J資料 神の名前に「ヤハウェ」を使っているので,ドイツ語の「ヤハウェ」の訳語JahweからJ資料と呼ぶ
  • E資料 神の名前に「エロヒーム」を使う.訳語の頭文字からE資料と呼ばれる.
  • D資料 申命記だけはひとつのかたまりと考えて間違いない.訳語からD資料と呼ぶ.
  • P資料 祭司達の記録が元になっていると考えられる資料

これらの資料の詳細な成立時期と内容はp.35あたりに細かく述べられているので,そこら辺を参考にされたい.

モーセ5書の成立理由

5書が4つの別々の資料から組み合わさってできている可能性は,四資料仮説で述べた通り.
ただ,この四資料は単に組み合わさっているだけでなく,不自然なところで文を切ったり,不自然な文の挿入が行われている.
明らかに人為的に資料をいじった跡が見られると報告されている(チェンガー,オットー,クラッツ)

では,なぜこんな不自然な形で5書が成立することになったのか?そのまま四資料を組み合わせるだけではいけなかったのか?

記事では,この5書の成立にはペルシア帝国が大きく関係していると述べている.

ペルシア帝国がイスラエル民族をバビロン捕囚を解放したのは,歴史が示している通りだが,その後,ペルシア帝国は他民族を支配下におきながらも「民族自治」のような政策をとった.

つまり,「帝国で法を定めないから,各民族で法を決めてちゃちゃっと提出するように」と支配下の民族に求めた.

となれば,イスラエル民族は早急に法を決めないといけない.でも,法の根拠となる民族の生い立ちがなければ困る.そこで,いまある資料をうまいこと組み合わせて,作ってしまおう!

となったわけだ.

こうして5書は成立したのではないか?とこの記事は締めくくっている.




そういえば,まったく関係ないが,創世記といえば,諸星大二郎の短編マンガを思い出した.
東北に伝わる亜種すぎるキリスト伝説を下敷きにした短編マンガで,ぼくはこのマンガを読んで東北の隠れキリシタンのことを知ったくらい.

東北のある村に,村全員が知恵遅れの不思議な地域があって,主人公が調査にいくと,わけのわからないことをいう老人が1人しかいない.で,老人が行くところについていくと,「彼らの」イエス・キリスト復活の瞬間に立ち会うという話だった.

この短編の中では,神の園には知恵の実と命の実があったが,村人達は「命の実」を食べてしまった方の子孫で,知恵の実は食べてないので,村人達は不死なのだが,知恵おくれのまんまだった.

という設定だったと思う.
キリスト教信者が見たら卒倒しそうな漫画: プログラマボクサーの日常